うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜






 は、早く着きすぎてしまった。

 ちょうど帰宅ラッシュの頃だ。
 道が混んでいて、結構時間はかかったのだが。

 朝日はまだ、問題のおばあちゃんの相手をしているようだった。

 受付はもう閉まっていたが、年輩の看護師さんが、もう終わるだろうから、と診察室の前のソファに案内してくれた。

 朝日の声が聞こえる。

 さっきの電話とは違う穏やかでやさしい口調だ。

 耳に心地いい声だな、と思った。

「ねえ、貴女、朝日先生の彼女?」
とその看護師、渡瀬(わたせ)が訊いてくる。

 あ、いいえ、と言うと、
「そうなの? 残念」
と彼女は、がっかりした顔をした。

「え、なんでですか」
と言うと、

「いや、あんなことがあったからねえ。
 早く、朝日先生に彼女とか出来ればいいなと思ってたんだけど」
と言ってくる。

「あんなこと?」
と訊いたが、笑って教えてくれなかった。