うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 



「でもさ。
 人が入って来れないように、玄関に物を積み上げたりしたのでもよかったかもね」

 廊下を歩きながら瑞季がそう言うと、
「火事になったら死ぬだろ」
となんだかんだで荷物を持ってくれている了弥が言う。

 エレベーターまで行ったところで、瑞季は、あ、と足を止めた。

「歯ブラシ忘れたっ。
 ドライヤーもっ」

「歯ブラシは買え。
 ドライヤーはうちにある」
と言いながら、ボタンを押す了弥の頭を無言で見ていると、

「なんだ?」
と訊いてくる。

「いや、ドライヤーとか使うんだ? と思って」

「俺の髪が乱れているとでも?」

「いや、私よりちゃんとしてるよ。
 でも、なにかこう、了弥って、あまり細かいことを気にしそうにないから。

 性格が、ざっくりというか、さっぱりというか、こざっぱりというか」
と言うと、了弥は横目にこちらを見ながら、

「……俺はお前以上にざっくりした奴を見たことがないが」
と言ってくる。

 なにか昨夜の事象に対するアバウトさを責められているようで、瑞季は黙った。