うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 それにしても、神田め。

 昔から偉そうな奴だったが、教師になってから、より一層だな。

 だが、あれだけ優秀だった神田が教員の道を選んだときには驚いた。

 てっきり大学に残るか、一流企業に就職すると思っていたのに。

 ……しかし、俺と神田が同じ高校、同じ大学だってのは、ちょっと訊けばわかることなのに。

 訊かないし、気づかないのが瑞季だよな、と苦笑する。

『お前が見えたからだよ――。

 了弥』
と言ったあとで、神田は、

『……お前の声だと思ったんだよ』
と笑った。

 瑞季が最初に神田に電話をかけたとき、後ろから自分の声が聞こえていた、と神田は言った。

 神田並みの鋭さが瑞季にあればな。

 ほんとあのボケが、と思いながら、そろそろいいか、と読みかけの車の雑誌を棚に戻す。

 神田はうちの近くのマンションに送られた瑞季の小芝居を、苦々しく思っていたことだろうに。