うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 



「これよ、ほら」

 トイレにしゃがんだ瑞季は、駆けつけてくれた了弥にカラカラとトイレットペーパーを回してみせた。

 バーカ、バーカ、と書かれたそれを、へー、と了弥は冷たく見下ろしている。

「その夕べの男が書いたんじゃねえのか?」

「でも、昨日はなかったのよっ」

「だから……鍵持って逃げたんだろ、そいつ」

 早く付け替えろよ、じゃっ、と行こうとする。

「待ってよ。
 見捨てないでっ」
と思わず、腕をつかむと、お前なあ、という顔をするが、止まってくれた。

 だが、
「話くらい聞いてよ。
 友だちでしょ?」
と立ち上がり主張すると、

「友だちじゃない」
と了弥は言い捨てる。

 それでも、ちょっとは哀れに思ってくれたのか。
 仏心を出した了弥が溜息まじりに言ってくれた。

「じゃあ、うちへ来い」
「えっ?」