うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 勝手な思い込みだが、こういう人の良さそうなお坊ちゃんタイプの人は、マザコンが多いような気が。

 いや、神田くん、人は良くないけどさ、と思う。

「ほんとだよ。
 君が好きだよ。

 その夜の相手が、僕でも、僕じゃなくても、結婚してもいいかな、と思ってる」

 いきなり、神田が軽く身を乗り出し、キスしてきた。

 それは一瞬のことで、誰も見てはいなかった。

 こ、こんなに人目のある場所で、僅かな隙を突くとは。

 やっぱり、この人、遊び人なんじゃ、と固まる。

 この顔だしっ。

 お坊っちゃまだしっ。

 女なんて、選び放題だしっ。

 箸を手にしたまま、固まっていると、
「あ、なんかいろいろ考えてる。
 悪い方に」
と、あのにやりとした笑いを見せる。

「大丈夫だよ、騙したりしないよ」

 いや、その一言で、既に騙されてる気がしますが。

 この人、面白がってるだけなんじゃ、と思いながら、まだ、固まっている目の前に、イカの天ぷらを出される。

 無意識のうちに、塩をつけ、無意識のうちに、
「あまっ」
と言っていた。