ぼーっとしていた僕と小池っちに春馬がそう言った。僕と小池っちはすぐにスニーカーを脱いで、上靴に履き替える。
「…………?」
なんとなく校門の方向に振り返ると、野比先生が校門の外に出て行くのが見えた。あそこから離れるのなんて登校時刻を過ぎるまでないんだけど、何かあったのかな?
「藍斗。おーい」
「なにしてんの?先に行っちゃうよー」
そんなことを考えている内に、春馬と小池っちは階段付近まで歩いていて遅れている僕を呼んでいた。僕は慌てて2人の下へと走り出す。
そう、この何気ない日常の中の違和感が、「幸福でありきたりな日常」の終わりの始まりだったのだと言うことに、この時の僕は気づきもしなかったのだ。
もしこの時に気付くことができていたのなら、そんなもしもは存在しないのだけれど、この時のことを悔やむのは少し先の話になる。



