僕はアイツの説明を聞いた時に『囚人達のジレンマ』という思考実験があったことを思い出した。

今回は色々と付け足されている部分があるけれど、根底にあるのは同じだと思う。

道徳的に倫理的に考えた場合、今回は名前を書かないことが再大多数の利益につながる。致死率も5分の1と考えたら、これまでの陰惨な実験からすれば、まだマシな方と言えるだろうし。

でも、もしも誰かが名前をパネルに書いた場合には名前を書かなかった人は100%死ぬ。ならば当てずっぽうでも書いた方が3分の1の確率で生き残れるのだから名前を書いた方が良いのか?

「君たちの未来を決める選択だよく考えてください。制限時間は10分とします、残り時間が1分になったらお知らせしますね」

そう言って放送が切れる音がした。無音が頭の中で響く。キーーンと耳鳴りの様な感覚と、自分の息遣いだけが聞こえていた。

当たり前だけど誰かと相談ができるわけでもない。他の3人もこの問いに向き合っているのだろう。

再大多数の利益か自己の利益か。ここまで僕達は色んな心理実験を目にしてきた。その中でも『ミルグラムの実験』と『スタンフォードの監獄実験』では、大切なことを学んだ気がする。

閉鎖された空間の中で、人はどこまでも残酷になれる。

今僕は自分の思考、いや脳という閉鎖された空間の中で残酷な自分と、それを懸命に否定しようとする自分とがせめぎ合っているのだった。