「さて役者はそろいましたね」
アイツの声が監獄に共鳴しながら響く。心なしか楽しそうな声に聞こえてきた。これから始まるのが史上最悪の心理実験だとアイツは知っているはずなのにだ。
「君たちには今見てわかる通り『囚人役』とその囚人を監視、教育する『看守役』とに分かれてもらいました。
さて囚人役のメンバーを見て気づいた人もいるのかな?」
アイツにそう言われて初めて僕達が何故、囚人側にいるのかが分かった。
そう僕を含めて、ここにいる10人は"犯人探しの容疑者"だったんだ。
「今回は犯人探しの際に奇しくも指名をされてしまった人達に過酷な『囚人役』を引き受けてもらうことにしました。では、さっそくですが改めてこの囚人10名、看守10名による監獄生活のロールプレイをしてもらいます」
「ロールプレイ?RPGのことか?」
アイツの言葉に佐野君が尋ねる。
「質問の際には挙手をしてほしいのですが、良い質問だったので今回は目を瞑りましょう佐野君。
ロールプレイとは、”与えられた配役になりきって行動をする”という意味があります。なのでゲームのRPG(ロールプレイングゲーム)も”勇者”という”配役”になりきって操作をして進行していくゲームであると言えます。なので佐野君の質問は正しいと言えますね」
つまり僕たちに求められるのはより囚人らしく、佐野君たちに求められるのはより看守らしく振舞うということなのか。
「とはいえこれはあくまで実験ですし、囚人役の人達が罪を犯したわけではないので、実際の監獄の生活とは少し異なります。君たちの尊厳を保証する為に3つの約束をしてもらいます」
・・・・・・3つの約束ね。
与えられた配役になりきること、そして3つの約束か。僕はこれから起こる事態を察してか、ただ単にこの異質な空間への恐怖からなのか身震いをしていた。
「3つの約束とは『暴力を振るわないこと』、『三食をしっかり食べること』そして『囚人の行動は何事にも看守の許可を必要とする』という3つになります」
これは実際の監獄ではなく、あくまでロールプレイ・・・・・・『暴力を振るわないこと』は勿論だけれど、『三食を食べる』、『囚人の行動は看守に規制される』ということがルールか。
「そして、実験の中で途中辞退をしたい方は申し出てください」
は・・・・・・?
「途中辞退って、やめてもいいってこと?」
アイツは何を言い出したんだ、そんなこと言ったら囚人役はもちろん、看守役だってこんな実験辞退したいに決まっているじゃないか。
「だったらこんな実験やめ・・・・・・」
皆がそう思ったことだろう。そう、辞退が可能なら別に始まってからでなくとも今すぐ辞めたいに決まっている。
「ただし、途中辞退の方は勿論致死量の電気ショックを受けてもらいます。実験と共に人生というRPGからも辞退したい方はどうぞ名乗り出てください」
なんて悪質な、辛辣な、悪意に満ちた言葉だろう。
「なんだよそれ・・・・・・・」
ほんの一瞬、僕らに希望を見せつけて、そして絶望を叩きつけた。名乗り出ようとしていた人達ももちろん名乗り出ることはなかった。
「----この時点での辞退者はいませんね」
でも、僕らはこの実験が始まってからこの時のアイツの陰湿な提案が、実は人としての尊厳を守る為の最後の手段だったことを知るのだった。



