寺井くんを拘束していたすべての器具が解かれた瞬間だった。
「ぷっ!!」
寺井くんは自分の左手に向かって何かを吐き出した。
つば?違う。
もしそうだとしたら、彼の目にあれだけの生気が、怒りが蘇るはずがないのだから。
「寺井!いけぇえ!!」
佐野くんが叫んだ。
彼は知っていたんだ。
寺井くんが口の中に隠していたそれの正体を。
「うおおおおああっ!」
左手には紫色だろうか?画面越しには黒くしか写らない何かがあり、それの隆起した部分は尖っている。
急な彼検体の暴挙に白仮面に動きは見られない。
当たる!今ならどんな攻撃でも、あの白仮面に当てることが、一矢報いることができる。
何かを手に振り上げた左手を、勢いよく寺井くんは振り下ろす。
「…………あ」
その時、寺井くんの身体が不自然に揺れた。
まるでそう、休み時間におふざけでバッドを地面について、その取っ手部分に額を当ててグルグルと回った様に。
まるでそう、フィギュアスケートを見た直後に真似をして地面を回転したかのように。
まるでそう、同じ文字の羅列を見て不快感のような目眩を感じて見た世界のように。
白仮面の首元を目掛けて振り下ろされたはずのソレは、軌道を外れ白仮面の左肩をわずかに掠めただけだった。
「…………うそ、だろ?」
白仮面は無言で、拘束を解くために屈んでいた状態から立ち上がる。
寺井くんは、振り下ろした腕の力で地面に倒れこんでいた。
ポタっと鮮血が寺井くんの目の前で、花の様な跡を残して散った。



