「お前は誰だ?
お前は誰だ?
お前は誰だ?」
寺井くんの瞳はだんだんと虚ろになってきていた。
監禁から恐らく四日。
時計はなく、陽も遮られているので昼夜の区別すらままならない。
そんな状況だから僕らの体内時計はすでに壊れてしまっていると言っても良いだろう。
そんな、壊れた時計での感覚で言えば寺井くんのケンショウ実験が開始されてから30分と言ったところだろうか?
もちろん、時計が壊れているのだから分からないのだけれど。
「お前は誰だ?」
この一つの文には二つの意味が込められていると僕は思う。
一つは文章のそのままだ「目の前にいる相手は誰ですか?」という、見知らぬ人を前にした時の至極当たり前な質問としての意味。
そして、もう一つが「目の前にいる自分という存在への否定」だ。
ただしこれは、当事者の話であってモニターを使って様子を見る僕らとではわずかばかりの誤差が生じている。
僕らは「モニターの前の寺井くんという存在を否定」しているのだ。
それも、誰ならぬ寺井くん彼自身の言葉によって。
単調に単調に。
「お前は誰だ?」
眈々と眈々と。
「お前は誰だ?」
その言葉だけが繰り返される。
ただそれだけのことで、僕は気が狂いそうでしかたがなたっか。
耳を塞げば解放されるだろうか?
目を閉じれば逃れられるのだろうか?
自分の命をとしてまで、恋人の屈辱を晴らそうと命をかける彼を尻目にそんな愚弄ができたものか。
それだけは、僕はどうしてもできそうにもなかった。



