成人男性でさえ激痛に金切り声をあげるとされる270ボルトでも、眞木さんは自分の意識が回復したことを気づかれないように声を殺すことに成功していた。
「…………あれ?アタシ怪我してないじゃん。
ははっ」
『ブアメードの血』の実験で切られたと思っていた左足の甲に怪我の跡すらないことわ見つけて、笑った。
もう力は入らなかった。
そして、彼女の最期の時間はやってきた。
285ボルト。
「もう少しだよ一真。
苦しね、頑張って。私はあなたを守るんから」
声はもうでなかった。
口をパクパクと動かし、壁の向こうの愛しい人に届くようにと願いながら、口を懸命に動かした。
寺井くんはもう思考を捨てていた。
恋人に何度も何度も何度も何度も。
繰り返し電気ショックを流したことへの罪悪感。
こんな痛みを伴うのならいっそ自分が代わって死んでやりたい。
それすらも叶わない。
「…………大丈夫。
アナタならやれるよ…………私の代わりに生きてね」
「…………不正解者には罰を与えてください」
最期のコール。
一目だけ寺井くんは白仮面を見た。
それは実験の中止をこう為ではなく、最初の約束を再認識する為のものでもなかった。
「一真、好きだよ。
大好き。私が死んでもあなたが生きてくれるなら十分だから…………」
電圧を285ボルトに設定した寺井くんはすぐにボタンに手をかけた。
「…………生きたい」
一瞬なにかが聞こえた気がした。
勿論その時、眞木さんの声は出てなどいなかった。
気のせいだった。だったはずなのに確かに聞こえた。
「生きたいよ。死にたくないよ。助けてよ一真ぁ!!」
滴り落ちた血液がゆっくりと同心円を描きながら揺れていた。
ポタリ、ポタリと血が滴る度にゆらゆらと。
「ブース07。眞木 紗由理さんの死亡を確認しました。実験を修了します」



