白仮面は微動だにせぬままに櫻田くんを見つめ続け、言う。
「実験を続行してください」
有無を言わせぬとはこのことなのだろう。
櫻田くんは壁の向こうの見根津さんを見て、白仮面により初めに告げられたルールを思い出していた。
「…………それでも、僕はできません」
カタカタと震えながら涙目で白仮面を見る。
「あなたに実験を続けてもらうことが、絶対に絶対に必要なのです」
「お願い!一徹くん助けて!!」
「…………ひっ」
ぼろぼろに涙を流す見根津さん。
泣きじゃくり、何処構わず涙をぬぐった彼女の皮膚表面は小さな電圧でも、致死の電流を受け入れるだけの条件が知らずの内に整ってしまっていた。
比喩でもなんでもなく、この瞬間、見根津さんの命は櫻田くんの次の一言に委ねられたのだった。
「一徹くん!一徹くん!!」
名前を叫び、実験の中止をこう女の子。
視線を一ミリも外さずこちらを見つめている白仮面。
二つの圧力の中で櫻田くんは思考をほぼ停止した。
その時に彼の胸に浮かんだのはある1つの残酷な決定であった。
「…………はっ。なんでオレがこんな思いしてまで、こんなヤツを実験から解放してやらなくちゃならないんだよ」
その時の表情は白仮面とアイツ以外は知らないが、アイヒマンと同じ冷酷で醜悪な表情だった。
櫻田くんは無表情になり、震えも止まっていた。
ゆっくりと白仮面を見る。
「…………こんな実験続けられません」
ブース08、見根津 愛・櫻田 一徹組。
権威者への服従心に抗い、アイヒマン実験を修了。



