ケンショウ学級

朝の会をして、一時間目の国語の授業を終えた僕はようやくそれに目を通すのだった。国語の新井先生には正直申し訳ない気もするけど、今日の授業内容はほとんど頭に入ってこなかった。

「…………」

厚手の本は教科書の何倍になるだろうか。ただでさえ頁数も教科書の何倍もあるのに、文字も明らかに教科書よりも小さい。つまりより沢山の情報が詰め込まれているのだ。

その本は専門書だったので知らない単語もたくさん出てきた。でも、そんなのは前後の文脈や、注釈・参考図とかを見たらなんとなく想像できるんだよ。本当に分からなければ、大上先生に聞いてみよう。

「この前ネットで見たやつだ……」

僕は何かに集中するとブツブツと口に出てしまう癖があるらしい。とは言え、ついこの間春馬に指摘されるまで自覚はなかったのだけれど。

それに癖は無自覚で起きることも多いから、今もどうやら何かしら呟やいていたことについて自覚がなかった。

「無意識…………権威…………ロールプレイ…………」

一刻も早く目を通したかったから斜め読みになっているけど、僕のそれを読んだ感想はこの一言に尽きる。

「うん…………面白い!!痛っ」

その時、後頭部に結構な勢いで何かが当たった。振り返ると床に、丸めた模造紙のボールが転がって揺れていた。頭に当たった角度から推測された、延長線上に視線をやるとそこには不良グループの姿があった。

「ブツブツうっせーんだよ根暗野郎」

「あっはは。たっちんナイスコントロール!」

丸めた模造紙を投げた犯人は自主をするかのようにそう言っている。取り巻きもこんな行為をもてはやすようにしていて不快感が増す。僕はこの手の嫌がらせにはどうしても嫌悪感を抱いてしまう。

だけど、言い返したりすれば事が大きくなるだけだから、形だけの謝罪をして事を収めようと思った。

「……ごめんよ佐野くん」

佐野 拓哉(さの たくや)はこのクラスの不良グループのリーダーで、クラスメイトは大概こいつの顔色を伺っている。野球部では来年のスタメンは確実と言われているのに、喧嘩っ早くて時おり問題になることもあるから顧問を困らせていた。

今だってこんなことになってても、誰一人として僕を助けようとしたり、佐野くんを止めようとする人はいない。助ければ、次は自分がターゲットにされるかもしれない恐怖。それだけで、人は簡単に目の前の出来事に目を瞑ることができてしまう。

……全く理解し難い。

でも、人間のグループなんてそんなものだよね。