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それからどれくらい時間が経ったか分からない。

まだ意識が朦朧(もうろう)とする中、空にはキレイな月が浮かんでいた。

……私どうなったんだっけ?

たしか待ち合わせ場所まで歩いて、ヘンなところにたどり着いて。それで戻ろうとしたら声がしてそれで……。


「あ、やっと目覚ました。大丈夫?ちゃんと意識ある?」

私はなぜか建物の中にいて、下は冷たいコンクリートだった。その声と一緒に暗闇から誰かが近づいてきた。

その人は意識を確かめるように私の顔の前で手のひらを左右に振っている。


「……え、なんで……」

「もうまさか2時間も寝ちゃうなんてさ。だから麻酔針はダメだって言ったのに」


その人は注射器を片手にブツブツと文句を言っていた。

あの時チクリとしたのは多分これのせいだ。だから私はすぐに意識が遠退いていって……いや、それを今考えてる場合じゃなくて。なんで、なんで……。



「な、なんで栗原先輩がここにいるんですか?」

色々と分からないことだらけだけど、私は健二くんに呼び出されたからここに来て、最後に見たのも健二くんの顔だった。それなのに……。


「七海ちゃんって本当にバカが付くほど真面目だよね。わざわざこんな場所まで来ちゃうし、おまけに人のこと疑わないいい子ちゃんだもんね」


これは本当に栗原先輩なんだろうか。

顔つきも口調も私の知っていた先輩じゃないし、月明かりに照らされた顔はすごく悪い顔をしていた。