「あーあ1年じゃん。大丈夫?重いなら俺らが手伝ってあげるよ」


ドクンドクンと心臓がうるさい。

亜紀は短かったけどこの学校に通ってたし、当時の亜紀を知っている人が3年生にいることはわかってた。

だけどこんなにもふいに名前が出るなんて思ってなかったから……。
  

「い、今その……塚本って……」

「ああ、2学期始まってすぐ姿を消した塚本くんの話?キミ知り合いなの?」


きっと亜紀のことだから先生に説明しないでくれって頼んだのかもしれない。

自分のことで周りが迷惑することだけは避けたいって言ってたし、たった半年しか通ってないから誰も寂しがらないよって一番寂しいはずの亜紀が言っていたのが忘れられない。


「アイツどこに転校したんだっけ?ってか下の名前ってなんだっけ?」

「………」

「でてきそうで思い出せないからすげーモヤモヤしてたんだよね。知り合いなら教え……」


「――藍沢」

こみ上げた思いが口から出そうになった時、後ろから誰かに名前を呼ばれた。


「早くそれ持ってこいだってよ」

それは夏井だった。


記憶は時々残酷だ。


亜紀がどんな日々を過ごしていたのか知らないくせに〝亜紀〟っていう存在はこんな人の記憶の中にもある。

だけど私だってきっとその面影や声、ぬくもりも時間とともに薄れていくのかもしれない。


あんなに色濃くてかけがえのない時間を過ごしたのに、記憶はだんだん上書きされていく。

たしかにキミはここにいたのに、こうしてひとつずつ消えていくんだと思ったら、私がこの残酷な世界から消えたくなった。