亜紀と過ごした日々を思い出しながら、私は外を歩いていた。

コンクリートの照り返しがキツくて暑いはずなのに、今はそれを感じない。


――『波瑠は今年……亜紀くんのところに行くの?』


亜紀の家族にもお世話になったのに、一度も顔を出さない私を薄情者だと思っているだろうか。

そう思われても仕方がない。


みんな1日1日進んでいくのに、私だけ時間が止まっているように遅くて。

悲しみも苦しみもまだ当時のまま、なにひとつ消えない。


私がおかしいの?

なんでみんな普通の日常が送れるの?

亜紀はいないのに。どこにもいないのに。


ざわっと揺れる木々から甘いお線香の匂いがしてきた。

私が足を止めたのはコンクリートの壁に覆われた庭園墓地の前。ここに亜紀が眠っている。


何回かこの場所に来たけれど、私はいつもここまで。

これ以上はまるで足かせが付いてるみたいに進まない。

進もうと思うと体が震えて、今だって指先が冷たい。


……ああ、やっぱりダメだ。

私は流れ行く雲をぼんやり見つめて、引き返そうとした時。庭園の出口から人影が見えた。


『あ、もしもし?夏井です。今帰り道なんでそっちに伺ってもいいですか?』

誰かと電話で話す姿は間違いなく夏井だった。


『はい、はい』といつもの夏井じゃなく敬語で。

庭園から出てきたってことはお墓参りの帰りだろうけど、夏井の家ってここら辺じゃないはずだし、お盆なんだから普通は家族と来るよね。

なんでひとりで……。


そんな疑問を浮かべながら、歩き去っていく夏井をずっと目で追っていた。