……キヨさんって子どもいないんだっけ。飾ってある写真も旦那さんとのしかない。


ふっと前を見るとリビングと続いている奥の和室に仏壇が見えた。そこには旦那さんの遺影。

たくさんの花が置いてあって、毎日替えてるんだなって分かる。



「……寂しくなったりしませんか?」

思ったことが声に出ていた。

言うつもりなんてなかったのに私のバカ……。


「それが不思議と寂しくないのよ」

キヨさんはふふっと笑いながら嫌な顔ひとつしないで答えてくれた。


「あの人、私がいないとなにもできなかったのに口ばかり達者でね。私がなにかするたびにあーしろ、こうしろってうるさかったんだから」

「………」

「だからきっと今頃は天国で自由にのんびりやってると思うの。私もこの歳だし、いずれまたあの人に会うんだから、私もそれまでは自由に楽しまないとね」


キヨさんの言葉を聞いて、私はいつの間に手を握りしめていた。


大切な人との別れを経験して、そんな風に前向きでいられるのが羨ましい。

それは過ごしてきた年数とか年齢とか、キヨさんと私を同じ計りにはかけられないけど、それでも羨ましい。


私は一度も亜紀のところへは行ってないし、
手も合わせていない。

それがいけないことだって分かってるけど……どうしても行けない。

認めたくない。

まだ、まだってなにかしらの奇跡を望んでしまう私は……本当にバカだ。