本当はまだ走りたいこととか、大会に出たかったこととか、悔しくてたまらない気持ちを全部吐き出した。

昼休みのチャイムは鳴って5限目が始まっても私は止まらなくて、先輩は嫌な顔ひとつしないで付き合ってくれた。

もう愚痴も弱音も言い切った頃には、私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていたと思う。


「すいません……。私のせいで授業サボることになっちゃって……」


気持ちが落ち着いて少し冷静になった。

なんだかとんでもないことに先輩を巻きこんでしまったと、今さら反省してる。


「授業なんていいよ。それより波瑠の気持ちはどう?」

「なんだかスッキリしました」

「それなら良かった」

ああ、先輩って本当にいい人だなぁ……。
こんな完璧な人が実在するんだってくらい。


「まだ走れないことが実感できてないんですけどね」

「ゆっくり受け入れていけばいいよ。俺はいつでも話聞くし、波瑠がまた楽しいと思えることに出逢えるように願ってる」


まだ走ることが一番だけど先輩の言葉で気持ちがスッと楽になった。

新しい部活だってそこにしかないものがきっとあるし、なにか新しいことが見つかるかもしれない。先輩のおかげでそんな前向きなことを考えられるようになった。


「じゃ、まず俺と楽しいこと見つけてみる?」

「え?」


「気分転換に今度デートしようか」



デートという単語に胸を踊らせたあの頃。

まだ純粋でなにも知らなくて、目の前に悲しいことが起こっても必ずこうして乗り越えられると信じてたあの頃。


きっと私が色々なことを乗り越えられたのは。

そうしようと思えたのはキミがいたから。



ごめんね。亜紀。

亜紀がくれた強さはもう今の私にはない。


どうしようもなく弱虫で、もう涙もでないよ。