「なあ、健人ひとつ頼みたいことがあるんだけど、いいか?」

「なんすか。エロ本ならいくらでも貸しますよ」

「ばーか。そんなのいらねーよ」


俺はこんなキャラだし、自分で言うのもヘンだけどムードメーカー的な存在だって思ってる。

だから湿気た顔も沈んだ空気も俺には似合わない。

「お前を見てると元気になるよ」って先輩は言ってくれたから、俺が落ちこむわけにはいかないんだ。それなのに。


「俺が死んだら、彼女のこと頼むな」

先輩がそんなことを言うから、一瞬笑顔を忘れてしまった。


「な、なんすか。いきなり。やめてくださいよ」

俺は先輩の目を見れなくて、声も慌てていた。


「健人しか頼めるヤツいないから」

先輩はまるで自分が死ぬみたいな言い方だ。


きっとだれにも見せないけど、先輩は覚悟してるんだと思う。自分が長くないことを、大切な彼女を置いて死んでしまうことを。


ふざけんなよ。

ふざけんじゃねーよ。


脳に腫瘍ができたからなんなんだよ。医者が諦めてもそんなの俺がなくしてやるよ。

世の中にクソみたいな人間は山ほどいるのになんで先輩なんだよ。なんで先輩を病気にするんだよ。

ふざけんじゃねーよ。


感情をグッと堪えて俺はまた笑顔を作った。