病気のことを先輩から聞いた時、先輩は自分のことじゃなくて彼女のことを心配していた。

付き合って半年。


いろんな所に連れていったりしたいのに出来ないし、隠れて泣いてることも知ってるって。いっそのこと嫌いになってくれたらラクなのにって。だけど大切だから突き放すこともできないって言ってた。

たった14歳と16歳の子どもになんて過酷な試練を出すんだって、神様が目の前にいたらぶん殴ってやりたい。


「健人、最近めちゃくちゃフットサル上手くなったってみんな言ってるよ」

「まぁ、才能ですかね?」

「ふっ。じゃ、才能あるお前にこれやるよ」


それは先輩がいつも付けていたキャプテンマークだった。

それを手離すのがどんな意味なのか分かっている。

先輩はもう戻れないと、コートに立つことはないと、自分で悟ったんだ。


「受け取ってくれ」

その真剣な眼差しに俺はゆっくり右手を出した。

キャプテンマークはずしりと重くて、俺は気持ちを隠すために笑った。


「じゃ、先輩のウインドブレーカーも俺にください」

「?」

「先輩にパワーの宿ったウインドブレーカー着れば、俺世界狙えると思うんですよね」

「はは、お前なら本当に行けそうで怖いよ」

コート上に立てなくても、離れた場所にいても、一緒に戦える。先輩の名前が刻まれたこれを着て、俺は一緒に戦う。