「俺さ、先輩に頼まれたことがあって。すげー面倒くさくて厄介なことだけど……でも俺も大切になったから。だからちゃんと引き受けてきた。それもさっき報告してた」

そういえば自販機の裏に隠れていた時、すぐるさんとそんな話をしてたっけ。


「頼まれたことって……?」

「それは俺と先輩のふたりだけのヒミツかな」

「もう、なにそれ」

すごく気になるけど、私も深く聞きたいとは思わない。

夏井と亜紀の繋がりもとても特別で。すべてを知るより心で想像したほうがいいこともあるんじゃないかって今は思うから。

すると、空からはパラパラと赤ちゃんみたいな粉雪が降ってきた。ふわふわと綿毛みたいで、それを手のひらに乗せると優しく溶ける。

冬って寒いだけのものだと思ってた。

だけどこうして、吐く息が白いのも、かじかむような冷たさも今は愛しく思える。


「藍沢」

夏井が私の名前を呼んだ。


「俺先輩にはなれねーし、なる気もないけどひとつだけ負けないものができた」

夏井の顔は真剣で、今まで見たことないってぐらい。

 
「……なに?」

吐息をはくように尋ねた。


「お前を笑顔にすることだよ」

あまりに自信満々に言うから言い返すのも忘れて、私は笑ってた。