この前と同じ桜の木の下のベンチに座って、途中でお父さんは温かいお茶を買ってくれた。


「いつも亜紀のことありがとう。毎日妻が波瑠ちゃんがいてくれて良かったって話してるよ」

お父さんが〝波瑠ちゃん〟と呼んでくれてることが嬉しかった。

少しずつ緊張の糸がほどけていって、私は両手で持ったお茶をぎゅっと握りしめた。


「でも亜紀は……私がいることで逆にツラい思いをしてるんじゃないかって思うんです」


私が学校の話をしてる時も外の話をしてる時も、亜紀はいつも笑ってくれるけど、本当は吐き出せない気持ちをぶつけたい日だってあるんじゃないかって。

あの狭い病室で、限られた行動範囲の中で、息が詰まってどうしようもない時があるんじゃないかって思うのに、亜紀は愚痴ひとつ言わない。


「もしかして……亜紀と喧嘩でもしたかい?」

「え?」

「いや、妻が最近亜紀がため息ばかりついてるって言ってたから。妻は治療のストレスかな?なんて言ってたけど……」

「実は……はい。喧嘩というか、亜紀にもうここには来ないでって言われてしまって……」


お父さんに話すのはズルい気がしたけど、私もどうしたらいいのか分からないし、誰かに相談したいと思ってたから。