亜紀に別れようと言われて3日が過ぎていた。

もちろん私はなにも受け入れてなくて、変わらずに毎日亜紀の病室の前まで行くけど、扉をノックすることができなかった。


――『俺、波瑠見てるのツラい。波瑠だって俺を見てるのツラいでしょ?』


その言葉には亜紀の〝見せたくない〟って気持ちがあるような気がした。

私がいることで治療に専念できなかったり、邪魔だなって思ってるなら仕方がない。

でもそうじゃないなら、別れるなんて選択肢は私の中にない。


この気持ちをどう亜紀に伝えようか。

むしろ私の話を聞いてくれるのか、もう亜紀は決意を固めてしまったんじゃないかって考えると、やっぱり亜紀の病室を叩く勇気がでない。


「あれ、キミは……」

廊下に声が響いて振り向くと、そこには亜紀のお父さんがいた。


亜紀のお父さんと会うのはこれで2回目。

天文台に行った時は緊張で挨拶もできなかったし、それから何度も亜紀の家に遊びに行ったけど、仕事が忙しいお父さんとはなかなか会う機会がなかった。


「あ、藍沢波瑠です。天文台に遊びにいかせていただいた時はお世話になりました」

……やっぱりお父さんは緊張する。


亜紀のお母さんとは家でも病院でも顔を合わせてたし、今ではなにかあった時のために連絡先まで交換してるけど……。

お父さんは柔らかさの中にもちゃんと威厳があって、簡単には近づいちゃいけないオーラがでている。


そんな固くなった私を見て「少し話をしよう」とお父さんは中庭に誘ってくれた。