「先輩はお前の彼氏じゃねーし、別れてないけど付き合ってもない。そうだろ?」

「やめて。そんな話聞きたくない」

「どんなに見つけても先輩はいねーし、どんなに追いかけても先輩は……」


「だからやめてって言ってるの!!」


久しぶりに大声を出した。

冷たい空気が肺に入って、呼吸が荒くなる。

説教なんて聞きたくないし、されたくもない。


みんな、なんなの?

なんでそんなに私を前に進ませようとするの?

いいじゃん。止まったって。

ずっと想い続けて、ずっと現実から目を背けたっていいじゃん。


「……今のお前を見て先輩は笑ってくれるのかよ」

その言葉で私はカッとなって、そのまま夏井の肩を叩いた。


「そんなのアンタに関係ない……!亜紀とどれだけ親しかったか知らないけど、私がどんな気持ちであの日々を過ごしたか夏井に分かるの?分からないでしょ?」


心が崩れる音を聞いた時、私自身も粉々になった。

愛する人を失う悲しみなんて、夏井なんかに理解できるわけがない。


「だったら泣けよ!悲しいって苦しいって声に出せよ!」

「……っ」

「自分だけが先輩を想って、自分だけがツラい思いをしたなんて思ってんじゃねーよ」

夏井を叩いた右手を力強く掴まれた。

小刻みに震えてるのは私か、夏井か。それとも寒さのせいなのかも分からない。


「フットサルのメンバーも、友達も家族もみんな枯れるぐらい泣いたよ。脱け殻みたいになって、なんで先輩がってみんな悔しくて鼻水垂らしながら大泣きしたよ」

「………」

「だれも忘れてない。忘れずにみんな悲しいまま、前向いてんだよ」


屋上のコンクリートが雨も降ってないのに濡れていく。

夏井の左目から涙が出れば、次は私の右目から涙が出て。

泣いたら、キミがいないことを認めたことになる。


「ちゃんと受け入れろ。藍沢波瑠」

グッと夏井に肩を掴まれた。

強い瞳で、まっすぐに私を見つめてくる。


「そうしなきゃ先輩はいつまでもお前が心配で行く場所にいけねーよ」