最近よく、亜紀のことを夢にみる。

それはきっと私の時間が止まった〝あの瞬間〟に季節が近づいているからだ。


高校の教室では今日も退屈な授業をしていた。みんな黙々とノートを取っていて、シャーペンの音だけがカリカリと響いている。


私も大学ノートを開き、一行だけ写したけどその手は完全に止まっていた。

静かに横を見ると夏井は教科書も出さずに顔を机に伏せている。


――『残された俺たちはなにをすればいいんですかね?なにをすれば……先輩の想いを晴らすことができるんだろうって。そう考えると胸が詰まって夜も眠れない』

聞いてしまった夏井の本音。

夏井に聞きたいこと、言いたいことが沢山あるのに私は一歩踏み出せない。


怖いんだ。夏井がまっすぐすぎて。

私が心に閉まっている気持ちや弱さを蹴破ってきそうで。


そんな想いとは裏腹に私は休み時間、夏井に呼び出された。


ずっと寝てたくせに「ちょっと来い」とか偉そうに上から目線で。私が渋ると夏井に屋上まで強引に腕を引っ張られてしまった。


11月の屋上は思った以上に寒くて本当に夏井は計画性がないし、また風邪ひいたらどうするのって感じ。

だけど夏井の目は真剣で、ふざけて返すことはできないと思った。


「俺、もう隠すのやめた。お前とは真正面でぶつからないとダメな気がする」


どうせさっきのも狸寝入りだったんでしょ。寝てるふりして、ひとりでなにやら決意を固めちゃって。

夏井が嘘つきだって私はもう十分知っている。