違うならそれでいい。

家に帰ってお母さんに「やっぱり違うじゃん。不安にさせること言わないでよ」って怒ればいいだけのこと。

違うよね?違うと言って……。


「……そうだって言ったら?」

亜紀がやっとこっちを見た。

その目は嘘をついてる目でも、からかおうとしている目でもなくて。私はグッと亜紀の手を掴んだ。


「なんで……なんで言ってくれなかったの?」

「言ったって変わらない。どうせ手術できない」

「なんで諦めるようなこと言うの?腫瘍だって小さくなってるって……」


頭の中で浮かんだあの日の亜紀。

いま思えば亜紀はあの時すごく笑っていて。それはまるでなにかを忘れたがってるみたいに……。


「もしかして嘘だったの?」

声が震えた。


「腫瘍が小さくなったって嘘だったの?」

「そうだよ」

床に着いてるはずの足が砂のように崩れていく感覚がした。

亜紀は私を真っ直ぐに見つめて、その唇は鼓動の速さとは逆にゆっくりと動く。


「本当はあの時、胃にも腫瘍が見つかって。今までの治療なんてなんの意味もなかったんだって。だから病室に入る前に考えて、波瑠に言ったら悲しむから」


……なにそれ。

あの時、ベンチで肩を寄せあって。お互い楽しいことを見つけようって。

私は亜紀を、亜紀は私を想って穏やかな時間を過ごしたのに、全部嘘だったの?

本当はあの時、なにを考えていたの?



「波瑠、別れよう」

ドクンッと心臓が悲しい音をたてる。


亜紀は私の手をそっと離して、優しくない瞳で私を見つめた。


「俺、波瑠見てるのツラい。波瑠だって俺を見てるのツラいでしょ?」

「………」

「もうここには来ないで」



キミに突き放された夜。

その日は満天の星空で、流れ星がいくつも流れていた。

それはまるで誰かの涙みたいに。



ねぇ、亜紀。


夜空を見るたびに恋をして。

触れることのないキミに手を伸ばすのはもう疲れた。


いい加減会いにきてよ。

そのまま連れ去って構わないから。

早くこの手を掴みにきてよ。