次の日、私はお母さんの許可をとって学校を休んだ。

どうしても不安が拭えなくて、病院の面会時間と同時に506号室に駆けこんだ。


コンコンッとノックすると中から亜紀の声。

静かにに扉を開けると、病室は元通りのキレイな状態になっていて昨日の血の海が嘘のようだった。


「お、おはよう!亜紀」

亜紀は私を見るなり、すごく驚いた顔をしていた。


「学校は?」

「へへ、休んじゃった」

「………」

なんだか亜紀のテンションが低くて、いつもと様子が違う。

薬の副作用や昨日のことでまだ体調が優れないのかなって思ったけど、亜紀は私と目を合わそうとしない。

すごく胸がざわついて、ぎゅっと手に力を入れた。


「あ、亜紀……私に隠してることない?」


亜紀ならきっと「隠してることなんてないよ」って。「ちょっと寝起きだからぼーっとしてただけ」って言ってくれるはず。

そして、いつもみたいに凍えた手を温めて、優しい瞳で見つめてくれる……はずだった。

なのに亜紀はそっぽを向いて私の質問に「なにが?」とひと言だけ。


こんな亜紀は初めてで、私は扉の近くで立ち尽くすだけ。


「……昨日の吐血見たよ。大丈夫なの?」

「………」

「朝ごはんはちゃんと食べられた?」

「………」


なにを聞いても返事が返ってこない。

私は覚悟を決めて、ベッドの上にいる亜紀に近づいた。そして……。


「ねぇ、亜紀。もしかして胃に転移してるわけじゃないよね?」