夏井の口から出る言葉は全部初耳なことばかりで、理解が追いつかない。

頼まれごとについて、すぐるさんは深く聞かなかった。


亜紀と夏井の関係が徐々に見えてきて、刺さるのはやっぱり河川敷でのこと。

知らなかったとはいえ、私は夏井にひどいことを言ってしまった。


「お前さ、亜紀の病院暇さえあれば行ってただろ?それすげー感謝してたよ」

「………」


夏井があの病院に来てたなんて……。

フットサルのチームメイトは何回か見かけたことはあるけど、そんなに頻繁に来てる人はいなかった。

私も毎日通ってたけど、一度も夏井には会わなかったし。


「学校サボるのに通り道だっただけっすよ」

「そうやって言い訳つけていつも顔出しにくるって亜紀笑ってたな」


私の知らなかった、もうひとつの亜紀の世界。

どんな話をしてたのかなんて分からないけど、自分の愛犬を夏井に預けるぐらい、亜紀は夏井を信用してたんだろうなって、膝を抱えながら思った。

すると夏井の声のトーンが変わった。


「時々無性に思うんですよね。あの時まだなにかしてあげることができたんじゃねーかって。今さら後悔しても仕方ないですけど」

グシャリと缶が潰れる音がした。


「先輩いつも俺が行くと笑ってて。全然ツラいところとか見せてくれなくて。本当は誰よりもフットサルの試合だって出たかったはずで、このチームの名前をもっと大きいものにするんだって意気こんでいた先輩がそのチームを置いていなくなって」

夏井の声がだんだん震えていく。


「無念だろうなって。すげー悔しいだろうなって」

「………」

「残された俺たちはなにをすればいいんですかね?なにをすれば……先輩の想いを晴らすことができるんだろうって」

「………」

「そう考えると胸が詰まって夜も眠れない」



悲しいのは置いていくほうより置いていかれるほう。

亜紀が置いていったのは幸せの記憶と埋まらない悲しみ。


あの日の雪はまだ溶けない。