夕暮れ時の学校。窓の外からオレンジ色の光が射しこんで、響くのはカチカチというシャーペンの音と弾む私の声。


「それで亜紀がね~」

教室に残っているのは夏井と私のふたりだけ。

今日は日直当番の日で私は日誌、夏井はまたペナルティで先生に頼まれた雑用をやっていた。


「あーホチキスの針また詰まった!ったく、なんでこんな面倒なこと俺がやんなきゃいけねーんだよ。そもそもこれ担任が顧問やってる卓球部の資料じゃん。あーくそ」

たしかに5枚まとめてホチキスで留める作業は夏井には苦痛かもね。でもその前に小テストもやらずに2時間ぶっ通しで寝続けた夏井が悪い。


「私の話聞いてた?」

「先輩とゲーセンに行ってぬいぐるみが取れなかった話だろ?」

「違う!取れなかったんじゃなくて次に並んでた男の子に譲ってあげたの。しかもあと少しで取れる位置にしたまま。亜紀って本当に優しいよね」


よく小さい子になつかれてたし、亜紀が抱っこしたら泣き止んだ子もいたっけ。

子どもってそういうの敏感だし、亜紀みたいな保育士の人がいたらみんな嬉しいだろうなぁ。


「あのさ」

すると夏井が作業の手を止めた。


「先輩の話するのやめない?」