寝ているのも申し訳ないと思うけど起きちゃダメだって言われたから私は天井を一点に見つめるしかない。


「名前聞いていい?」

声も素敵だし、イケメンはどこを切り取ってもイケメンなんだなぁ。


「あ……藍沢です。1年1組です」

聞かれてもないのに学年とクラスまで言ってしまった。


「うん。それは知ってる。保健の先生が藍沢さんって言ってたから。じゃなくて名前。下の」

「……波瑠です」

「はる!?」

なんだかすごくビックリされてる?


「あーごめんごめん。どんな字?」

「えっと、波の〝は゛に瑠璃色の〝る゛で波瑠」

「キレイな名前だね」

……そんなこと初めて言われた。

顔も完璧で中身も完璧なんて、こんな人本当にいるんだ。普通に2次元にしか存在しないと思ってた。


「俺は塚本亜紀。3年2組」

「あき!?」


……あ。同じ反応をしてしまった。

しかもふたつも上の先輩なのに、とっさに呼び捨てにしちゃったよ……。


「はは、うん。あき。字はね……」

と、先輩は人差し指で空中に書いてくれた。


――塚本亜紀(つかもとあき)。


同じ季節の名前で、出逢いはちょっとした事故からだった。

きっとあのサッカーボールが私の頭に当たっていなかったら、私たちはなにも始まらなかったと思う。


例えこの先なにかがあったとしても。
例えこの先なにかがなかったとしても。

私は絶対亜紀に会いたい。


あのツラい日々を引き替えにしても、亜紀は私にたくさんの幸せをくれた。

それなのに私はキミになにをあげられたのかな。


それを聞きたいのに、聞けないよ。