まだ荒い息づかいが残る部屋。

私はまだ足に力が入らなくて冷たい床に座りこんだままだった。

すると、ふわりと髪の毛が揺れて亜紀の暖かい体温が体に伝わってきた。


「波瑠ごめん……」

泣きそうな声を出したのは亜紀のほう。

私をぎゅっと抱きしめて、亜紀は何度も何度も〝ごめん〟を繰り返した。


「なんで亜紀が謝るの?悪いのは亜紀じゃないでしょ?」

体を離して亜紀の顔を見た。

さっきまであんなに怖い顔をしてたのに亜紀は情けないぐらい弱い顔をしていて、今度は私が抱きしめてあげたくなった。


「私なら平気だよ。亜紀が助けてくれたから」

亜紀に助けられるのは何度目だろう。いつか亜紀が困った時は私が亜紀を助けたいな。なんて、思っていると突然亜紀が真剣な顔をした。


「波瑠、聞いて」

亜紀がまっすぐに私を見る。


「俺は波瑠が傷ついたり傷つけられたりしたくない。だけどずっと監視できるわけじゃないから、俺の見ていないところで波瑠がこんなことされてたら耐えられない」

「………」


「だから、まだ待ってて」

スーッと染みこむように亜紀の声が心に入る。


「俺は自分がどう思われてるとか、周りからの評判とか、そんなの興味ないけど。俺の気持ちとは反対のことが起きたり、波瑠がそれに巻きこまれたりしたくないから……。ちゃんと波瑠を守れるようになるまでもう少し待って」


なぜか涙が溢れた。

今さらになって出た涙は安心よりももっと上。

亜紀は再び私を抱きしめた。


「そしたら俺の気持ちを言うから。全部言うから。だからその時波瑠の気持ちも聞かせて」

私は何度も頷いて亜紀を抱きしめ返した。


亜紀は今できる範囲で私を大事にしてくれている。

もし今特別な関係になってしまったら、きっともっと風当たりが強くなることを知ってるから。

そんなの関係なしに俺が守るから、なんて言葉で押し付けられるよりずっと強い想いを感じた。