――『亜紀先輩モテるから。知らず知らずの内に目付けられちゃう可能性もあるからさ』


そう綾乃に言われて数日後。

私はその言葉どおり3年の先輩に呼び出された。それはいつも亜紀の傍にいる麗花先輩だった。


「あのさ、最近アッキーと仲いいらしいけど、どういうこと?」

しかも麗花先輩だけじゃなくて、他にも数人の女子が私を睨んでいる。


「え、えっとその……」

私は綾乃のようにはっきり言えるタイプじゃない。

亜紀と話している先輩たちはニコニコとしていて強い言葉なんて使う感じじゃなかったのに、私のことを睨む顔はもはや別人のよう。


「一緒に帰ったり遊びにいったりしてるって目撃情報があるんだけど本当なの?」

「……ほ、本当です。でもそれには理由があって」


遊びにいったのだって部活のことで悩む私を励ましてくれただけだし、一緒に帰ったのもたまたま道で鉢合わせになっただけ。

私はいいけど亜紀に迷惑をかけたくないからちゃんと言わないと……。


「理由とかどうでもいいんだよ。つーかアッキーのこと好きなの?」

「え?」

「好きなのかって聞いてるの」

まるで蛇に睨まれたカエルだ。逃げ道を塞がれて、私の背中はどんどん丸くなる。


好きとかそういうの、なんで言わないといけないんだろう。

嘘をついて「なんとも思ってないですよ」と切り抜ければそれで終わるのかもしれない。だけど心と反対のことなんて言いたくないし〝好き〟って言葉も一番最初に伝えたいのは亜紀だから、ここでは打ち明けたくない。


「あーもう。すぐ黙るし聞いても答えないしなんなの?ただ確認しにきただけなのにすっごくイライラする!」

麗花先輩はドンッ!と壁を叩いて、それでも私はなにも答えなかった。


「とりあえず忠告はしたから。もう二度とアッキーの周りをうろちょろしないでよね。目障りだから」

そう吐き捨てられて、ようやく私は解放された。