こんな音は久しぶりだ。

体の中からドンドンッと太鼓を叩かれているような鼓動。


ドクン……ドクン……ドクン。

まさか、いや、ありえない。

でも間違いない。


なんで、なんで、なんで?を繰り返して、気づけば私は荷物を置いて走り出していた。

見間違いならそれでいい。

間違っていたら、それはそれで問題ない。


『だからしつこいって。じゃ賭けする?俺が5分以内にそっちに着いたら誰か肉まん……』

ガシッ!と私は夏井の腕を後ろから掴んだ。


「ハァ……ハァ……」

久しぶりに無心で走ったから息が上がっている。

夏井の耳に当てられたスマホからは声が漏れていたけど、夏井はそれをゆっくり下ろした。そして……。


「……あ、藍沢……」

動揺する声。

夏井はビックリというより、しまったって顔してた。

振り返る夏井の胸元がちょうど目線と重なって、さらに私の心臓が速くなる。


「なんで、なんで……」

自然と腕を掴む力が強くなった。

間違いであってほしいと思ってた。絶対ありえないって思ってた。

それなのに夏井に追いついて、自分の目で確かめて、声が震えた。


「なんで夏井が春風のウインドブレーカー着てるの?なんで夏井が……亜紀の……」


夏井の胸にはTUKAMOTOの文字。


私が何度も触れて、私に何度も触れてくれた亜紀だけのウインドブレーカー。大きくて優しい背中をいつも頑張れって応援してた。


「ねぇ、答えて。なんで夏井がそれを着てるの?夏井はだれ?だれなの?」


「俺は……」