まず一つ目に、彼はとても人懐っこいということだ。深山をはじめとする3、4年の先生方に可愛がられまくっている。何と言えばいいかわからないが、とにかく可愛がられるツボを心得ているのである。それが天性のものなのか、それとも意図されたものなのかは今のところまだわからない。
そして二つ目に、彼の人脈は4月からの2ヶ月と少しの間で瞬く間に広がったということである。初任者というのは初任者研修というものを受けなくてはならない。近年のベテラン教師の一斉退職と若手教員の増加により、初任者の数は毎年とても多い。そんな中で着々と友人を作り、しょっちゅう飲みに出ているようなのだ。

(…若いよなぁ、ほんと。)

「東さんは終わりなんですか?」
「うん、今日は少なかったから。でも明日は多い。」
「僕もですよ。」
「じゃあ明日も頑張らないとだから今日は早く帰ろう。」
「それができたらいいんですけどねぇ。」

三つ目。彼は思っていたよりお調子者である。ノリの良さは、最初の緊張で隠されていたようだが、もうすでに周囲にバレている。

「いや、私は今日はとっとと帰るよ。変な天気で頭痛いし。」
「え、大丈夫ですか?」

その四。彼はとても気がきく。恩着せがましくなく、気を遣う。

「雨の日が苦手なんですか?」
「大正解。この後絶対くるでしょ。」
「ざーっときますね。」
「これはほんと…だめなやつ。」

美樹は頭を抱えた。雨雲が突然出てきて蒸し暑くなるような日。そんな日は確実に頭が痛くなる。頭痛薬を常備すればいいのはわかっているが、朝が元気だと忘れてしまう。

「…じゃあ早く帰らないとですね。」
「うん。早く帰って寝る。」
「あ、じゃあこれ、貰ってくれません?」
「ん?」

職員室の藤澤の机(ガラガラ)から出てきたのはチョコレートだ。

「僕、甘いもの苦手なんで。」
「知ってるよ!」

そして最後、彼は甘いものが苦手。それなのにケーキバイキングに行きたがるような人なのだ。