あたしの家から少し歩いて、大通りに出た所でコクリと息を呑んだ。
横断歩道を含む駅までの道のりは、朝の通勤通学ラッシュで人で溢れかえっていたから。
なにこの人混み!
ぜんっぜん前に進めない!!
慣れないこの人混みに、ギュウギュウと音がしそうなほど押しつぶされながらも、必死に前に進もうと足を踏み出す。
が、突然横からドンッと突き飛ばされた。
「……っ…わぁっ」
「おっと」
体勢を崩したあたしを、ポスッと受け止めた逞しくもしなやかな腕。
え?
だ、だれ?
驚いて顔を上げると、ちょっぴり懐かしい、あたしの大好きな人の姿が目に飛び込んできた。
「お兄ちゃんっ!」
「朝から危なっかしいな、シキ」
サングラスをかけ、ニヤッと笑ってあたしを見下ろすのは8歳年上の兄の詩音(しおん)だった。
お兄ちゃんはそのままあたしを、ヒョイッと横抱きに抱きかかえると、人の少ない所まで運んでくれた。