────…グイッ
引っ張り上げられて、トンッと着地したステージ上で、あたしはふるふると首を振っていた。
「お、お兄ちゃん…あたし、歌えないよ」
こんなに大勢の前で歌えるほど度胸は強くない。
「シキ、歌、好きか?」
「……好きだよ」
「なら、その事だけ考えればいい。誰かに聞かせるために歌うのは俺だけで十分だ。シキはシキの歌いたいように、自由に歌え」
あたしの手をひいて、ステージの真ん中へ。
シン…としていた会場内がザワザワと騒ぎ出す。
「────…残り二曲、始めようか!」
お兄ちゃんの声に、ポカンとしていた陸部メンバーがはっとしたように呼吸を立て直した。
ドラムの合図。
そして皆が奏でる音楽は、あたしとお兄ちゃんの大好きな曲。
……自由に、歌え。
大好きな曲を大好きな歌を、あたしの思うままに歌えばいい。
大丈夫、と言い聞かせ、前奏が終わろうとしていた時、お兄ちゃんと視線を合わせた。
ニッと笑ったお兄ちゃん。
それがお兄ちゃんの〝いくぞ〟の合図だって事を、あたしは知ってる。
渡されたマイクを握りしめて、あたしとお兄ちゃんはほぼ同時に、息を吸い込んだ…────



