「百合……理事長によろしく伝えてね。迷子にならないでよ? あんた方向音痴なんだから」


方向音痴って言わないで、お母さん!


玄関先まで見送りに来てくれたお母さんに、あたしは心の中で言い返す。



「うん、ちゃんと伝えるよ!」


少し不安そうなお母さんを安心させるべく、少しおちゃらけてビシッと敬礼をしてみせると、その顔がフワッと和らいだ。



「駅まで行けば、お兄ちゃんが来てくれてるから大丈夫!いってきますっ」



そんなお母さんに手を振り、まだ夏が終わりきっていない暑さの中に、飛び出すように身を投じた。