「……俺、シキの片想いかと思ってたけど、違ったんだな」
突然そう言ったお兄ちゃんに、あたしはかぁっと顔が熱くなる。
「な、なななな」
「惚れてんのは向こうだろ。それも重症なくらい」
な、な、なんてことを言い出すの!?
「重症って!」
「だって事実だろ。やばかったよ、シキの事抱きかかえてきた時のあいつの顔」
「……翔空の、顔」
「恋する乙女って感じの表情で、さらにはシキに触ろうとした俺の事をめっちゃ睨んできた」
恋する乙女って……相手は学園の王子さまだっていうのに。
顔はお兄ちゃんといい勝負だろうし。
しみじみと言うお兄ちゃんに、頬をひきつらせてから、あたしは小さく口を開いた。
「ま、まだなにも言えてないの」
翔空が好きって。
言いたかったのに、そう伝えたかったのに、こんな事になってしまったから。
「でも、伝えるって決めたんだろ?」
「っ……うん」
覚悟は、決めたはずだったのだけれど。
一度逃したタイミングは、あたしの心を引っ張るのには十分すぎるくらいだった。
言ったら、どうなるんだろう……とか。
伝えたら、今となにか変わるのかな……とか。
もし離れていってしまったら、それこそどうしたらいいのか……とか。
余計なことばかり考えてしまう。



