キミと初恋、はじめます。





────……結局あれから、翔空と顔を合わせないままで。


というのも、昼休みはあたしが翔空が来る前に逃げ出したから。


1人誰もいない校舎裏でお弁当を食べて、隠れるように教室に戻った。


そして、それから午後の1限が始まり、憂鬱な時間を過ごして。


授業が終わると同時に、あたしはガタリと立ち上がって、なっちゃんに歩み寄った。



「……なっちゃん、ごめん。あたし、今日用事出来たから先帰るね」


「……そっか、わかった。翔空には、私から伝えといてあげるから。あんまり気に済んじゃないわよ」



心配そうに言ったなっちゃんに、なんとか笑顔を向けてから、あたしは教室を飛び出した。


まだ、授業はあと1時間残ってるんだよね。

人生で初めてのサボりだ。


それでも、廊下を走るあたしを追う人の視線を無視して廊下を駆け抜け、校舎を飛び出した。


本当はサボりなんてしたくないんだけど、やむを得ない。


なんとなくあたしもサボりたい気分だったし。

少し心に罪悪感を覚えながら、門の所に立つ人影に、あたしは駆け寄った。



「……お兄ちゃん」


「お、来たな。シキ」



あたしに気づき、サングラスをヒョイッとあげて見せたお兄ちゃんは、いつも通りにニッと笑った。



「忙しいのにごめんね」


「今日は午後空いてたんだよ。それにシキから電話くるなんて、何かあった時くらいだからな。……ま、少し息抜きしようぜ」



そう言ってあたしの手を掴んだかと思うと、目の前に止まっていた車の助手席のドアを開け、わざとらしく頭をさげたお兄ちゃん。



「どーぞ、お姫さま」


「……ありがとう、サングラスのお兄さん」


「おいおい、そこは王子さまだろ!?」



お兄ちゃんのナイスツッコミに、あたしはぷっと噴き出して、笑いながら車に乗り込んだ。


ほら、こうやっていつも温かく包んでくれるんだよね、お兄ちゃんは。


おかげで少し肩の力が抜けた。


昔はよくこうして笑いあったけど、2年前からそれも出来なくなったから。


でもさっき、ついお兄ちゃんに電話してしまったら、〝今から会おう〟なんて予想外の言葉が返ってきて。


びっくりしたけど、忙しいお兄ちゃんが空いてる時なんて本当に少ないからね。


こうしてあたしのためにわざわざ来てくれるんだから、本当によく出来た兄だこと。


そんなお兄ちゃんだからこそ、近くにいるとやっぱり心強いし安心するんだ。