「そんなの、わかるかよ。 ならおまえは、シキちゃんの事わかるのか? 心の声が、ちゃんと聞こえてるのかってんだよ!」
「っ……そんなの」
「わかるって? それマジでわかってんの?
ちゃんと、シキちゃんの口から聞いたことはあんのかよ?」
「………っ…」
俺が言い返せずに、わずかに眉根を寄せると、夏が祐介を引っ張った。
「……祐介、もう、行こう」
夏にひかれるまま、俺の胸ぐらから手を離した祐介は、踵を返した。
そして、数メートル離れた所で俺を振り返り、今にも泣きそうな顔で小さく呟いた。
「……どうせおまえの事だから。シキちゃんに逢った時から、あの子の心が泣いてる事くらい、気づいてたんだろ」
「…………どうかな」
「いつまでも逃げてんじゃねぇよ。……見損なった、おまえ」
吐き捨てるように言った祐介は、前を向いて夏を引っ張って足早に廊下を歩いていく。



