「……それでは、失礼致します」


ニコニコと手を振る百合さん……学園の理事長に、あたしはペコッと頭を下げて部屋を出る。


パタン、と扉の閉まる音がして、ホッと息を吐いた。


理事長室。


挨拶のために訪れたはいいものの、入る時はだいぶ緊張してしまった。


それが、ものすごく気さくでのんびりした人で、お母さんとの昔話まで聞いてしまったけれど。



「良い人だったな……理事長」


ポツリと呟いて、誰もいない長い廊下を一人歩き出す。


この広い星澟学園の敷地内なら、どこに行っても退屈はしないだろうけどね。


でも、あたしが行きたいのは……誰もいない静かな場所だから。


理事長に聞いたら、どうやらこの学園の裏には花園があるらしいんだ。


もちろん星澟学園の所有地だけど、普段は誰も行かない……そもそも花園の存在を知らない者の方が多い、とか。


花園なんて素敵な場所があるなんて。


なんか楽しみ!


いったいどんな場所なんだろう。

あたしは少しわくわくしながら、花園への道を軽い足取りで走り出した。