君に、最後の長いためいきを

「好きだったよ、ずっと」


言い置いて走り去る背中を引き留めるか否か迷う一瞬、その間に姿は見えなくなっていた。


人混みに目を凝らしても、雑踏にやはり彼女は混じらない。


「っ……」


なーんてね、とか言えよ。


冗談だって笑えよ。


『私の結婚式、呼ぶからね』

『呼ぶな呼ぶな、金やんなきゃいけなくなるだろ』

『えー、いいじゃんか、祝ってよ。ブーケあげるからさあ』

『いるかばーか』


ホームの壁に力が抜けた体を預けた。


暗闇に浮かび上がる冷えきった白に、彼女の手を思い出す。


真夏でも冷たいくらいに冷え性だったことも思い出して、俺を沈ませる。


幼い思い出は、どうして苦しいものばかりに変わっていくんだろう。


ささいなやり取りは、どうして今になって一息に蘇るんだろう。


……あの頃、言えば良かったのだろうか。


好きだと、たった三文字を伝えれば、何か違ったのだろうか。


好きだと言わなかったあのときを、幼かったと振り返る。


愚かだったと分かりきっているあの日々はそれでも、眩しくて愛しくて、幸せに輝いていた。


……たとえ今さら思い知ったって、どうにもできないのに。


ひどい置き土産を残されたって、あいつがすり抜けていったら意味がないのに。


馬鹿野郎。


「……ほんと、何、言ってんだよ」