君に、最後の長いためいきを

結婚するんだろ。


好きなやつがいるんだろ。


……俺の、気持ちなんか、分かってただろ。


こんなこと、してんじゃねえよ。


強く腕を引かれて勢いのまま屈むと、彼女が俺の耳に口を寄せた。


「……君のこと、好きだったよ」


囁かれた言葉にさっさと帰らなかったのを後悔した。


過去形の報告ならいらない。


今さらだって分かるだけだから、後悔が募るだけだから、無意味な告白はいらないんだよ。


だって、さ?


今なら俺も好きだと言ってもいいかなんて、そんなことあり得ないだろ。


「…………ばーか、何言ってんだ」


笑い飛ばして彼女の髪を乱す。


香水の匂いと、変わらないシャンプーの匂い。


だけど、化粧をして髪を明るく染めた彼女は、俺の記憶の幼なじみとは別人みたいだ。


たった数年の、俺が知らない彼女の年月が、俺たちを確かに隔てている。


……そうか、そうだよ、きっとこれはふざけてる。


多分明日改めて確認したら覚えてないか、冗談と笑うか。


だから期待してはいけないと無理矢理に区切りをつけて、自分を無理矢理納得させて。


馬鹿みたいに速まる動悸に、落ち着けと言い聞かせる。


……でも本当は、ずっと、ずっと、その言葉が欲しかった。


彼女を抱きしめたかった。


帰したくなかった。


奪い去って、しまいたかった。