君に、最後の長いためいきを

そして、俺を呼び出した当人は今、カウンターで俺の隣を陣取っている。


白木のカウンター、優しく揺れるキャンドル。


木製の店内に橙色はよく映えた。


グラスにかけた右手の薬指につけられた細い銀の指輪が、さりげなくもう彼女に手が届かないと宣告しているようで、切ない。


「そういえばさ、そういえばさ?」


ゆらり、ぼやけた輪郭を縁取る橙。


薄明かりに柔らかく滲む彼女の横顔が、やはり胸を刺して仕方ない。


「ん?」


相槌を打つ俺に、実に楽しそうに彼女は笑いかけた。


……嫌な予感がする。


「この間ね、彼がね、寝言で私の名前呼んだんだよー!」

「そうかよ」


きゃあきゃあと騒ぐ彼女に苦笑する。


専ら話題は彼女の結婚相手のことばかりで、少しは幼なじみらしい邂逅もあって欲しい。


ああ、と、漏れそうな溜め息を封じ込める。


勝手な期待を抱いたのはこちらの責任だ。


だけど、隣で甘く香る香水に、悔しくないと言ったら嘘になる。


女性的なお洒落をしなかった彼女がこんな可愛らしい香りの香水なんてつけているのは、十中八九、彼女の相手のためなのだろうから。


俺の知らない仕草はきっと、その彼の仕草に似ているのだろうから。