君に、最後の長いためいきを

どこも変わっていない。


辺りを薄桃色に染め上げる街路樹の桜も、小さくひび割れたアスファルトも同じまま、変わってしまったのはこちらの方。


来る途中ずっと、幼なじみの彼女は入籍した相手のことを繰り返していた。


彼はね、髪がさらさらなんだけどネコ毛でね、口癖は『あのさ』でね、本当に本当に滅多に怒らなくてね、料理が上手でオムライスがふわとろなんだよすごくない?


そんなことを言って。


楽しげな報告を寄越す彼女の隣で、俺は表情を作るのに忙しかった。


今でも子どもなら、いつでも笑いかけたのに。


恋心を知って、機微を知って、俺たちは大人になってしまった。


大人になったのは悪いことなんかじゃないはずなのに、制約が増えていく。


不都合と面倒事ばかり増えていく。


「何お前、ふわとろオムライスとかまだそんな子どもっぽいの好きなの?」

「……う、うるさいな」


わざとからかえば、恥ずかしかったのかこちらをジト目で睨む。


さらに、赤い頬を指摘すると、べし、と脇腹を小突かれた。


取り戻した掛け合いは楽しい。


でも、遮るために少々強引に割り込んだのに、それでね、と再び相手の話に戻ってしまう。


本音を言うなら、そんな、彼女の夫の話なんて聞きたくない。


……会えなかった時間を埋めるのは、彼女の話がいいのに。


今まで何してたとか、こんなこと始めたとか、何でもいいから。


面識のない誰かの話じゃなくて、彼女の話を聞きたかった。