君に、最後の長いためいきを

わざと外さないままにしているイヤフォンを手持ち無沙汰に弄ぶ。


始まりが綺麗なその曲を無心に聞く。


それでも彼女の靴音がコツコツと密かにリズムを刻んで、聞き慣れた、久しぶりの声音が俺の心拍を掻き乱す。


連れて来られたのは寂れたバーだった。


桜並木に隠れるように、大通りから少し外れたところに密やかに建っている。


普請を重ねた跡が垣間見える様相はひどく懐かしい。


……ここは、変わらないんだな。


郷愁に駆られて瞬きをした。


夜はバー、夜以外は飲食店という二つの顔を持つこの店で、何かある度、自分へのご褒美に、高校生にとってはわずかに値の張る食事を楽しんだものだった。


小さな頃は前を通るだけで。


そのうち広い窓から中を覗き見るようになって。


夜の名残がそこかしこに散らばる店内で食事をするようになってからは、大人になったら昼じゃなく夜に来ようねと、酒を飲み交わす約束をした。


『お前強そうだよな、酒』

『君はすぐに赤くなりそうだよね』

『どうだろうな。分かんないけど』

『早く二人でお酒飲んでみたいね』

『おう』


離れ離れになっても酒くらい一緒に飲めるだろうと、無意識に、無邪気に、思い込んでいた。


本当に、ひどく――懐かしい。