セナの言う憧れの金沢に降り立った。

「ついに来ました。」

「俺は何度も来てる。」

「香取さんは黙っていてください。浸っているんですから。」

「あっそ。」

俺はセナの後ろに突っ立ち

彼女の髪を見下ろしていた。

柔らかそうに波打ったセミロングだ。

無意識に手が動き

あわやというタイミングで

セナが振り向いた。

「香取さん、行きましょう。」

「あ、ああ。そうだな。」

和小物ショップ巡りのスタートだ。

メールで見たスケジュール通りと思いきや

セナが切り出した。

「香取さんがこれを買った小物屋に行きたいんですけど。」

そう言いながら

しゃぶりつきたいようなきれいな指でつまんだひょうたんのストラップを

俺の目の前にかざした。

「この店でいいのか?」

「はい。案内をお願いします。」

「わかった。」

セナはウォーキングシューズを履き

リュックを背負って両手はあけてあった。

目指すシロモノを存分に見定めるつもりだ。

今回も1泊2日の強行軍だが

指定席ではこの上なくくつろげた。

前回の京都は往復立ちっぱなしで懲りた。

足が棒になったのは言うまでもない。

「セナ。」

「はい。」

「楽しい?」

「ワクワクしています。」

「そっか。」

こうして連れ立って歩くのも

なんだか不思議な気がした。

今の彼女には俺に対してギトギトした感情も

どす黒い欲情もない。

真っさらで透明で

何て言うか

新緑の中を吹き抜ける清らかな風。

そういう濁りのない感情でいるように思う。

反して俺ときたら

どうしようもなくセナに溺れ

欲しいという醜い本性を完璧にひた隠し

こうしてそばにいることを

自分で自分に無理矢理許して

どうにも出来ない男女の関係を

苦しいまでに抑え込んでいる今があった。

こんな地獄のような状態が続くわけがない。

いつかはブッツリと音を立てて切れる。

それがどんなにお粗末なことになるかは

想像しなくても目に見えた。