「香取さんもあの店によく行かれるんですか?」

「うん。タオルより日本手拭いが好きなんだ。」

「サラシですか?」

「うん。セナはいつからあそこに?」

「半年くらい前に偶然見つけて。それまではネットであちこちから買っていたんですけど、今はあの店にに入り浸ってしまって。」

「そうだったんだ。」

俺は突如ひらめいた。

「京都へ行ってみないか?」

セナは足を止めて俺を見上げた。

彼女はどうとらえていいのかわからないでいた。

キラキラした目が少し潤んだように見えたのは気のせいだろうか。

俺はかなり突飛なことを口走ってしまい

セナの心情を心配しつつ

ちょっとだけ、いや大いに期待もあった。

俺たちは歩道の真ん中で見つめ合ってしまった。

「香取さん。」

「ゴメン。」

俺は反射的に頭を下げた。

「行きましょう。」

「わかってる。早く戻らないと今日も残業になってしまうんだろ?」

「違います。京都へ行くんです。」

「えっ?」

俺はびっくりしすぎて声がかすれた。

「スケジュールはまた明日のこの時間に決めましょう。」

「俺はいいけど、なんだか調子狂うよ。」

ハハハと弱々しく笑ってまた歩き始めた。

セナはこんな風に完全に俺を振り回すタイプだと勝手に納得した。

その夜

俺は京都のショップを片っ端からリサーチして

次の連休にまだ宿泊の予約が取れるか

ドキドキしながら焦り

心臓がバクバクするほどハイになっていく自分を意識できた。

この精神状態では寝られないな

とだけは冷静に判断できた。

翌朝また4時半という体内時計が狂ったとしか思えない時間に

セナから着信だ。

完全に寝不足な俺は重いまぶたをなんとかこじ開けた。

メールはこんな風に綴ってあった。

『昨日はありがとうございました。京都へは一度行ってみたかったんです。今まで機会がなく、香取さんからのご提案がなければまだそのまま行けず仕舞いでした。お誘いをありがとうございます。云々』

長々と続いていたから

俺はまぶしい画面にショボい目を閉じたら

スマホを握ったまま寝てしまった。