「香取さんはバカではありません。」

「じゃ、何?」

「好きなんです。」

「えっ?本当?本当に俺を好きなのか?」

「はい。だんだんとそんな風に想って。香取さんは私のことはそうではないと思うので、今まで付き合わせてすみません。それを謝りたかったんです。でもどう言ったらいいのかわからなくて、結局いきなりになってしまったこともお詫びします。」

一気に喋ったせいかセナは頬を上気させて肩で息をしていた。

まだ目も赤く

まつ毛も濡れ

泣いたあとがわかる。

すっげぇ色気だ。

キスしたい。

俺の本性はケダモノだ。

セナはそれをわかっているのだろうか?

華奢な両肩に手を置き

俺はそっと胸に抱き寄せた。

「香取さん。」

「雄二でいいよ。雄二って呼んで。」

「雄二さん。」

そう呼ばれて俺は胸がカァッと熱くなった途端

もう止められなかった。

そのままベッドに押し倒して唇を奪った。

セナを丸ごと欲しいという抑えていた雄の感情を狂暴にむき出し

自分の欲しいままにキスしまくった。

気づいた時にはゼイゼイと息を切らし

セナは俺よりも苦しそうに荒い息で胸を上下させ

零れた涙がシーツに染みていた。

「セナ。いきなりでごめん。」

「いいえ、すごく嬉しかったです。もっとしてほしいです。」

「俺を刺激しない方がいい。」

「どうして?」

俺は乱れた前髪をかき揚げてベッドに腰かけた。

「謝るのは俺の方だ。」

「どうして?」

「俺は最初から自分を隠したままでいた。初めはランチだけでも、いやその後もどうにかしてセナに近づきたかった。好きだと気づいたのは京都から帰ってからだ。それまではただ、汚い言い方だけど、欲しいだけだった。」

「雄二さん。そんな風に言わないでください。」

セナはベッドの上で膝をつき

俺の背中に抱きついてきた。

「好きでいてもいい?」

耳元でセナの甘い声が震えて聞こえた。

俺は振り向いて彼女をしっかりと抱きしめた。

「セナ、セナ。」

今すぐ抱き合いたい

と俺の本能は恥ずかしげもなくシュッと点火した。

「雄二さん。」

セナは両腕を伸ばして俺の体を離した。

「うん。」

「さっ、行きましょう。」

「えっ?」

セナはサッサとリュックを肩にして

ティッシュで鼻をかんでいた。

「早く。」

すでにドアノブに手をかけて俺を振り返って

「日が暮れちゃいます。」

と言い捨て

ドアを開けて廊下へ出た。

「セナ、おい、ちょっと、ねぇ、待って。」

俺の俺様流はセナの前ではほんの欠片も発揮できず

調子狂う自分を感じたが

想いが通じた嬉しさは胸に溢れ続けていた。

エレベーター前でセナに追いついた。

空っぽの中に二人で乗り込み

誰も気にせずキスできると

俺はニンマリした。

するとセナが俺より先に動いた。

体を密着させてきて

つま先立ち

初めて見る不敵な笑みを俺に向けた。

「キスしたい?」

俺はコクコクとうなずくしかなかった。