ーーガラガラ。

「ただいま」の一言も言わずに、私は古いガラスの引戸を開けて玄関に入った。

備蓄してある灯油とお線香がまじったような独特の匂いが鼻につく。
やっぱり、他所の家なんだと実感する。

自分の家の匂いは感じないのに、他人の家にはそれぞれ匂いがあるように感じるのはどうしてだろう。

「ここは貴方の家じゃないよ」

そう教える為だろうか。


きっと何年住んだって、この家の匂いに慣れる日はこない。そう思った。

奥の台所に人のいる気配を感じたけど、私は無視して階段を上がり、自分の部屋として与えられている部屋に入った。